研究概要 |
余剰の揮発性麻酔薬のガスを吸入した医療従事者の子供に奇形が生じるかどうかを、節足動物の一種であり、麻酔薬に対する反応がヒトに対するそれと比較的類似しているアルテミアサリ-ナを用いて調べた。比較した揮発性麻酔薬はハロセン、エンフルラン、イソフルランの3種類である。 人工海水を調製し、乾燥保存したアルテミアサリ-ナの卵を人工海水中に投入し孵化させた。アルテミアサリ-ナは通常24〜48時間で孵化する。卵を投入した直後から約2時間投与を続けた。孵化に要する時間はコントロール群と比べて有意には変化しなかった。しかし孵化に要する時間の分布はやや拡がった。孵化率はコントロール群に比べていずれも低下する傾向がみられた。孵化30日後の生存率はいずれの群においても有意な差はみられなかった。30日後のアルテミアサリ-ナを顕微鏡で観察したが、プルパレート作成手技のよるばらつきが大きく奇形を把握できなかった。 アルテミアサリ-ナの遊泳をビデオカメラで観察し、その軌跡を2次元平面内に座標(x,y)としてサンプリング間隔1/30秒でコンピュータに取り込んだ。そのデータを用いて5分間の総移動距離Lを、L=(SIGMA(x^<dt=t>_<i+1>-x^<dt=t>_i)^2+(Y^<dt=t>_<i+1>-Y^<dt=t>_i)^2)^<1/2>(ここでx^<dt=t>_iはサンプリング間隔dtをtとしたときのi番目のx座標)にてdtを変化させながら算出した。運動が複雑であるほどLのdt依存性は大きくなり、運動の複雑さを定量的に示す指標となる。コントロール群のアルテミアサリ-ナの遊泳の複雑さは約1.22(L vs.dtプロットの傾き=フラクタル次元)であるが、揮発性麻酔薬投与群では1.30〜1.45となり運動が複雑になる傾向がみられた。麻酔薬の種類による差はなかった。この変化が奇形などによる運動機能の異常によるものかどうかはさらに検討が必要であると思われる。
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