今回の研究の目的は、手術侵襲の生体に及ぼす影響を神経系・内分泌系・免疫系の3点について促え、将来的には三位一体の統合された観点からの評価法を得ることであった。対象を胃亜全摘出に限定し、麻酔法を「硬膜外+全身麻酔」と「全身麻酔のみ」に分類、手術中及び術後に上記の3点に関して変動を追跡した。その結果、1)手術侵襲と神経系に関して;自律神経系のモニターとして末梢皮膚血流量に着目し、レーザードップラー血流量計とMacLabを連動させるシステムを作製して手術侵襲との関連を調査した結果、低濃度の吸入麻酔薬併用時には手術侵襲の大きさと皮膚血流量とは密接な相関が見られた。末梢皮膚血流量測定は今後、自律神経系の新しいモニターとして有用と思われた。「硬膜外+全身麻酔」と「全身麻酔のみ」を比較すると、末梢皮膚血流量の変動は前者の方が後者より少なく、硬膜外併用麻酔は手術侵襲に対してよりstress freeな麻酔法といえる可能性が示唆された。 2)手術侵襲と内分泌系・免疫系に関して;内分泌系の指標として血漿コルチゾール、ACTH、血漿betaエンドルフィン様免疫活性を測定した。免疫系の指標としてCD4/CD8比(細胞性免疫の指標)、Leull(NK細胞活性の指標)を使用した。その結果、血漿コルチゾールと血漿betaエンドルフィン様免疫活性の変動は、術後のCD4/CD8比、Leullの変動と相関した。また手術中は末梢皮膚血流量と血漿コルチゾール値とは密接な相関を維持した。 以上から、神経系・内分泌系・免疫系の3系の変動を総括的にかつ定量的に把握する端緒は得られたと言えよう。今後は、手術侵襲によるサイトカインの変動もあわせて追跡する予定である。
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