研究概要 |
最近我々は,チオグリコレート誘発マウス腹腔マクロファージを用いた研究で,静脈麻酔薬の一つであるケタミンが,Lipopolysaccaride(LPS)刺激後の腫瘍壊死性因子(Tumor Necrosis Factor,TNF)の産生を容量依存性に抑制することを報告した(Takenaka I,et.al.Anesthesiology80:402,1994).そこで今回は,敗血症性ショックにおけるケタミンの有用性の有無を検討し,手術を要する敗血症患者の麻酔のみならず敗血症性ショック患者の治療の新たな展開を模索するために,マクロファージブロッカーとされているカラギ-ナンをラット腹腔内に前処理した後に微量LPS(0.5mg/kg)を静注する敗血症モデルを用いて検討を行った.ケタミンはLPS投与前30分に100mg/kg筋注後,10mg/kg/hの割合で6時間,持続投与した.LPS投与後の血清TNF値をはじめ,血圧,心拍数,血液ガス,血中肝逸脱酵素,血糖,血球数の変動を,ケタミン投与群(ケタミン群)と非投与群(コントロール群)で比較検討した.その結果,コントロール群では,LPS投与後2時間持続する血圧低下,2時間後をピークとする血清TNF活性の著明な亢進,白血球,血小板減少,さらにLPS投与6時間後には著明な代謝性アシドーシス,低血糖,血清肝逸脱酵素(OCT,m-GOT)の著明な上昇を認め,また6時間以内の致死率は50%であったことから,敗血症の種々の臨床徴候を模倣しており,このカラギ-ナンモデルが敗血症性ショックの機序を解明する上で有用であることが示された.さらに,ケタミン群では,TNF活性を有意に低下させたのみならず,血圧低下を完全に抑制し,さらにその後の代謝性アシドーシスや低血糖,肝細胞障害を有意に改善させ,早期の致死率を完全に抑えた.おそらく敗血症性ショックの重要な因子とされているTNF活性をケタミンによって抑えたことが,その後の一連の病態生理を改善させたものと推測された.これは敗血症性ショック患者への,今後の新しい治療の試みの一つとして考慮され得る有意義な結果であったと考えられる.
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