研究概要 |
TNF(Tumor Necrosis Factor)は様々な生物活性を有するサイトカインで,炎症やショックでの中心的メディエータとして注目されている.種々の刺激及び細胞によりTNFは分泌されるが,中でも細菌成分であるLPS(Lipopolysachcaride)刺激マクロファージでのTNF産生は精力的に研究されている.しかしながら,麻酔薬がこの系の及ぼす影響は明らかにされていない.今年度我々は,静脈麻酔薬であるベンゾジアゼピン系薬物がLPS誘発TNF産生に及ぼす影響を研究した. in vitroでは,ミダゾラムが,チオグリコレート処置マウスマクロファージでのLPS誘発TNF活性を濃度依存性に抑制することを証明した.ベンゾジアゼピンには精神作用を発現する中枢性受容体と,作用が完全には明らかではない末梢性受容体が存在するとされている.ミダゾラムはこの両者の受容体と結合し,混合型ベンゾジアゼピンとされる.この抑制効果の特異性を確認するために,クロナゼパム(中枢型ベンゾジアゼピン),4′クロロジアゼパム(抹梢型ベンゾジアゼピン)を使用した.4′クロロジアゼパムはミダゾラムよりも低濃度でLPS誘発TNF活性を抑制したが,クロナゼパムにはほとんど抑制効果はなかった.さらに,末梢性受容体の拮抗薬とされるPK11195を使用した実験では,ミドゾラムや4′クロロジアゼパムで抑制されたLPS誘発TNF活性がPK11195によって回復することを示し,これが濃度依存性であることもわかった.この結果から,ベンゾジアゼピンのLPS誘発TNF活性抑制効果は,末梢性受容体を介したものであることがいっそう強く示唆された. in vivoでは,4′クロロジアゼパムを投与したマウスをLPSで刺激して,2時間後に血清を得て,そのTNF活性を測定した.4′クロロジアゼパムは濃度依存性に血清TNF活性を抑制した. 結論として,ベンゾジアゼピンは末梢性ベンゾジアゼピン受容体を介して,チオグリコレート処置マウスマクロファージでのLPS誘発TNF活性を抑制することが強く示唆されたが,さらに,細胞内での機序に関して研究中である.
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