19例の男性膀胱癌患者に対し膀胱全摘除術及び骨盤リンパ節郭清術を施行した際に正常前立腺部尿道および内腸骨動脈分枝を採取した。これらの組織より平滑筋切片を作成し、organ bath内に懸垂、切片の一端をアイソメトリック・トランスデューサーに繋ぎ、増幅ユニットおよびレコーダーを用いて、筋切片に発生する等尺性張力変化を記録した。Organ bath内にalpha1-アドレナリン受容体作動薬phenyleph-rineを累積投与すると、尿道・動脈ともに濃度依存性に収縮した。非選択的alpha1-受容体遮断薬prazosin(1〜30nM)、選択的alpha1A-受容体遮断薬WB4101(10〜100nM)および5-methy1-urapidil(10〜100nM)の存在下ではphenylephrine収縮は尿道・動脈とも競合的に阻害された。この阻害の程度から各 遮断薬と組織との親和性を求めた。Prazosinは両組織に対する親和性に差を認めなかったが、WB4101と5-methy1-urapidilは尿道に対する親和性が有意に高かった。選択的alpha1B-受容体遮断薬であるchlor-ethy1 clonidine(CEC;0.1〜100muM)で前処理した後では、両組織のphenylephrine収縮は非競合的に抑制された。CECによる収縮抑制の程度から、CECに対する両組織の感受性を比較した。動脈は尿道と比較してCECに対し有意に高い感受性を示した。以上の結果よりヒト内腸骨動脈分枝ではalpha1B-受容体が優位であると考えられた。一方、ヒト前立腺部尿道はWB4101に高親和性であると共に、CECにもかなり感受性を示したことから、そのalpha1-受容体はalpha1Aよりもむしろalpha1C-サブタイプである可能性が高いと考えられた。このような各組織でのalpha1-受容体サブタイプの差異より、臨床面でのより臓器選択的な薬物治療の可能性が示唆された。
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