目的) 甲状腺ホルモンと悪性新生物の関連については乳癌では比較的検討されているが、前立腺癌に関しては不明な部分が多い。前立腺癌に及ぼす甲状腺ホルモンの影響を腫瘍倍加時間、核DNA量および核小体形成体関連蛋白(AgNOR)を指標として検討した。 対象) ヒト前立腺癌細胞株(PC-3)および前立腺全摘出手術時に得た前立腺癌組織を用い6週齢ヌードマウス背部皮下に移植した。 方法) 腫瘍移植後2週目より甲状腺機能亢進群、低下群および対照群の3群に分類した。甲状腺機能亢進群には連日L-thyroxine(T4)200mug/kg/day皮下投与し、低下群には0.05%PTU(propylthiouracil)を飲水に混じ投与した。治療開始より30日間観察した後屠殺し腫瘍倍加時間、核DNA量およびAgNOR数を測定した。腫瘍倍加時間は30/10xlog(腫瘍径)で算出した。核DNA量は、腫瘍組織をホルマリン固定、パラフィン包埋後4mum切片をフォイルゲン染色しCAS image analyzerを用いて平均200個の腫瘍細胞核を測定した。得られたDNAヒストグラムより2C deviation index(2CDI)を算出した。AgNORは5mum切片を用い、plotonらの方法に準じたone-step collid silver法により行いCAS image analyzerを用いて平均200個の腫瘍細胞核を評価し細胞1個あたりの平均数として算出した。 結果) 腫瘍倍加時間は各腫瘍とも、対照群に比較し機能亢進群、低下群のいずれも有意な延長を認めた。2CDI値およびAgNOR数は各腫瘍とも、機能亢進群と対照群との間で差を認めなかったが、低下群では低下傾向を認めた。 結語) 甲状腺機能の変化は腫瘍の増殖速度以外にも前立腺癌のもつ生物学的悪性度に影響を与える可能性が示唆された。
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