蓚酸カルシウム結晶の成長を抑制する高分子物質(glycoprotein)はIto and Coeによりヒト尿中から分離・精製され、Coeによりネフロカルシンと命名された。この物質の起源が近位尿細管であることよりネフロカルシンが腎癌の腫瘍マーカーになりうるかどうかについて検討した。まず、ネフロカルシンを特異的に検出するELISA法を開発した。ネフロカルシンを皮下注射したウサギの血液から抗体を精製した。精製IgGはネフロカルシンとは反応するが、アルブミンやTamm^- Horsfall蛋白とは反応しなかった。このIgGを使って、尿中ネフロカルシンの濃度を直接ELISA法で測定した。すなわち、ウサギに対するヤギの抗体を第2抗体として使い、ABC法により、horseradish peroxidaseと過酸化水素を加えて、オルト・フェニレンジアミンと共役させる。オルト・フェニレンジアミンの酸化による発色の強度を自動吸光度測定器を用いて、470nmで測定した。尿は手術前日と術後5-90日、平均14日後に1回ずつ、19名の臨床的に転移を認めない患者の24時間尿を、1gのチモールをいれたポリスチレンの容器に集めた。対照は健康な成人女子3名と男子5名の計8名である。腎癌患者の尿中ネフロカルシンは対照例よりも有意に上昇していた。また腎癌患者に対する根治的腎摘徐術後には術前に比して有意に低下した。腎癌を進展度別および悪性度別に分類し、ネフロカルシンをみると、これらのパラメーターとの間には明らかな相関はみられなかった。以上より、尿中ネフロカルシンは腎癌の腫瘍マーカーとなりうることが示唆された。今後は組織化学的に腎癌のネフロカルシン染色を行い、組織型との関係をしらべると共に、染色性と腎癌の予後との関係についても調べる予定である。
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