研究概要 |
我々はN-methyl-N-nitrosourea(MNU)とestradiol(E_2)を用いた、短期マウス子宮内膜発癌モデルを開発した。その後、そのモデルを利用して、estrone(E_1)やestriol(E_3)の内膜発癌に対する影響を検討した所、E_1、E_2、E_3ともに発癌増強的に作用することが明らかとなった。しかし、その発癌メカニズムは依然として不明で、その解明のため、MNUとE_2を用いて発生した内膜腺癌(Adc)と異型増殖症(AtH)においてH-,K-,N-ras遺伝子とp53遺伝子の関与について検索した。 [材料と方法]10週齢ICR雌マウスを開腹し、MNU溶液(1mg/100g体重)を左子宮に注入し、右子宮に生食を注入し、MNU投与1週間後よりE_2(5ppm)混餌飼料を投与し、28〜30週にて実験を終了した。培検時に子宮を摘出し、左右とも子宮を半割し、一方は診断用にホルマリン固定後H・E染色した。他方は直ちに凍結・保存し、DNAを抽出し、以下の実験に供した。Adc7例、AtH3例、正常内膜3例に関して、H-,K-,N-ras遺伝子のcodon12,13,61とp53遺伝子のExon5,7,8に関してPCR-SSCP法で変異の有無を検索後、変異の疑われた検体に関してdirect sequencing法にて点突然変異の有無を検索した。 [結果]Adc7例中2例のExon 5のcodon 163に点突然変異を認めた[TCA→TGA(Ser→Thr):TCA→TCC(Ser→Arg^+,stop codon)]。AtH、正常内膜にはp53の変異を認めなかった。H-,K-,N-rasのcodon12,13,61のいずれにもAdcやAtHで異常は認められなかった。 [結語]MNUとE_2を用いた内膜発癌系ではその発癌の一部にp53の異常が関与しており、しかも、AtHではその異常が認められないので、p53の異常はrate limiting stepであると考えられた。また、この発癌系ではras群の異常の関与の可能性は乏しいと考えられた。
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