Sprague-Dawley系ラット非妊メスと妊娠第21日の各個体から摘出した大腿動脈分枝である抵抗血管のリング標本に各種刺激を加えたときの等尺性張力の変化を検討することで以下の成績を得た。すなわち、1)無処置の状態において脱分極性及びレセプター刺激性収縮能に非妊時と妊娠時で差がないことが明らかにされた。従って、妊娠個体の昇圧刺激への不応性は末梢抵抗血管自身の刺激剤への不応性に起因するものではない可能性が示唆された。2)NNLA処理後の各種収縮反応やAChによる内皮依存性弛緩反応の成績も大腿動脈領域の抵抗血管のNO産生能は妊娠群と非妊群の間で差のないことを示すものであった。3)AChによる内皮依存性弛緩反応の一部はNO以外の物質が関与するものと考えられた。血管収縮能が妊娠に伴い鈍化することは種々の動物種のin vivoでの検討で確認されている。in vivoでは容量血管を用いた数多くの肯定的な報告があるが、生体内で血管抵抗を規定する、容量血管よりも径の小さい抵抗血管を用いた研究では未だ一定の成績がでていない。用いる血管床の種類や動物種の差を考慮にいれなければならないが、in vitroでの成績は必ずしも血管自身の妊娠性生理的変化に起因するのではない可能性が示唆された。さらに、妊娠にともない生体でNO産生の亢進することが妊娠時の血圧調節の重要な因子であるとの報告が近年多く見られるが、NO産生部位についてはさらに詳細な検討が今後必要と考えられる。
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