研究概要 |
周産期管理に於ける早産の病態を解明する目的で、絨毛膜羊膜炎との関係を検討した。平成2年10月から平成5年11月の間に妊娠32週以前の早産に終わった単胎妊婦23例に於いて、分娩前後に、母体発熱および破水の有無、白血球数および分画とCRP値の検索、尿培養、膣分泌物培養、外陰肛門皮膚培養の採取を行った。またこれら早産母体より出生した児の、白血球数および分画、CRP値の検討と羊水培養、血液培養を行なった。更に、分娩時に採取された胎盤、羊膜、臍帯を病理組織学的に検討した。早産の32例は、子宮頸管無力症など頸管因子が原因である群、破水に起因して母体および新生児に明らかに感染所見があり絨毛膜羊膜炎とみられた群、および破水を伴わず、母体の感染所見乏しいにもかかわらず新生児感染症を呈した群の3群に分類した。明らかな絨毛膜羊膜炎を伴う早産群に関して、陣痛発来・破水機序に各種のサイトカインが関与しているとの報告はすでになされているが、母体の感染所見が乏しいにもかかわらず新生児感染症を呈した群では、早産に至るメカニズムは解明されていない。これらは、急速に子宮口が開大し卵膜が膣腔内に脱出して分娩に至る経過を特徴としており、早産例の13.0%(3例)に認められた。3例のともに母体感染徴候は軽度で、いずれも白血球数10,100〜14,500/mm^3で、母体発熱、CRP上昇も軽度もしくは認められなかった。しかしながら出生新生児の2例は、敗血症による汎血球減少症および胎児循環遺残症を併発した。3例ともに出生早期は、CRP値の上昇は認めていない。 これら3例の母体の分娩前後の膣分泌物または外陰部肛門皮膚培養より、いづれも新生児の周産期感染症の起炎菌であるstreptococcus agalactiaeが検出された。しかしながら、胎盤、羊膜、臍帯に於ける絨毛膜羊膜炎は、組織学的には認められなかった。 以上の臨床成績より、母体感染所見と早産・新生児感染症所見の解離が、卵膜の局所感染によるものと推察された。現在、各種周産期感染症を惹起する細菌の卵膜への局所的な感染により、貧食細胞よりサイトカイン(IL-1,6)が産生され、コラ-ゲナーゼを刺激し、局所のコラーゲン組織を変化させ、卵膜の脆弱化を引き起こす過程を、基礎実験により検討中である。
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