ヒト胎盤絨毛上皮からの膜小胞を分離した。絨毛上皮刷子縁小胞は、right side outの膜小胞であり、絨毛上皮刷子縁膜小胞を血液凝固線溶系の基礎的な検討に用いることは、in vivoの現象を理解する上で極めて有意義な方法である。ヒト胎盤から分離した刷子縁(母体側)膜小胞(母体血流と接する)、ならびに基底側(胎児側)膜小胞(母体血流と接しない)を用いて、その血小板凝集阻止活性ならびに血液凝固阻止活性ついて比較検討した。血小板凝集には、ADP、アラキドン酸、コラーゲン、トロンビン、トロンボキサンA_2、PAF(Platelet activating factor)などの物質が関与しているが絨毛上皮刷子縁膜はいずれの物質による血小板凝集も阻止し、きわめて強力な活性を有することが判明した。この血小板凝集阻止活性は、胎盤絨毛上皮では刷子縁膜にのみに存在することが始めて明らかとなった。従って、刷子縁膜は、血液凝固の調節に特異的な役割を胎盤内で果たしていることが示された。また、胎盤絨毛上皮刷子縁膜による血小板凝集阻止には刷子縁膜に特異的に存在するADP分解活性が重要であることも判明した。この胎盤絨毛上皮刷子縁膜に存在するADP分解活性を有する物質は、膜分画よりり可溶化が可能であり、分子量、約60Kの分画に存在することが示された。一方、妊娠中毒症の予防薬として、アスピリンが注目されているが、アスピリンによる血小凝集阻止活性は胎盤絨毛上皮刷子縁膜存在下で顕著に増強された。
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