研究概要 |
子宮体癌の新FIGO分類(1988)によると、術中腹水細胞診が陽性であれば、子宮体部漿膜湿潤や付属器転移の有無に関わらず、IIIa期となる。これは腹水細胞診が陽性のみの症例が腹腔内にmicrometastasisが存在し,腹膜播種に進行すると予想されているからである。しかし、子宮体癌の術中腹水細胞診と予後の相関については未だに論議が尽きかねている。我々は、術中腹水細胞診陽性で子宮体部に限局した症例が、術後追加治療を行うことなく、5年生存していることを明らかにした。この結果より、経卵管性に腹腔に癌細胞が出現し、腹膜に生着しない可能性が考えられた。 そこで、腹水中の癌細胞の腹膜接着能に注目し、昨年の臨床細胞学会で以下のことを報告した。子宮体癌術中腹水細胞診陽性例を対象とし、閉膜時に薬液チューブを腹腔内に留置した。術後、それを利用して洗浄腹水細胞診を施行した。その結果、全例術後2週目の細胞診では陰性化した。この結果より、術後2週間以内に癌細胞は腹膜に接着せず、腹腔内から消失することが考えられる。 昨年はさらに,子宮体癌の原発巣における接着分子の発現を検討した。摘出標本の捺印細胞診を材料とし,laminin,fibronectin,vitronectinの各receptorno発現を免疫染色で検討した。その結果,laminin receptorは全例陽性であった。腹水細胞診陽性例はfibronectinとvitronectinのreceptorのどちらが方の発現が欠如していた。この研究成果については,平成6年度の癌学会に報告する予定である。 子宮体癌の国際進行期分類において腹水細胞診陽性例をIIIa期にすることは、我々の臨床結果より、過大評価である可能性が高い。そのことを裏づけるdataとしてもこの研究の意義は大きいものと思われる。来年度も是非継続していきたい。
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