下咽頭収縮筋(甲状咽頭筋および輪状咽頭筋)の神経支配様式や筋線維の組織化学的特性に関して、イヌを用いて研究し以下のような結果を得た。 1.下咽頭収縮筋の支配神経である咽頭食道神経を持続電気刺激した後、筋の凍結横断切片をPAS(Periodic Acid Schiff)染色し、筋線維内のグリコーゲン枯褐度を観察した。その結果、甲状咽頭筋では刺激側ではどの部位もほぼ一様に筋線維内のグリコーゲンが枯褐しており、非刺激側ではグリコーゲンが残存していた。これに対し輪状咽頭筋では刺激側より非刺激側に向かうに従い、徐々にグリコーゲンの枯褐した筋線維が減少した。すなわち輪状咽頭筋は肉眼的には対を成さず両側の咽頭食道神経の支配を受ける形態を呈するが、筋線維レベルでは一側の咽頭食道神経の支配を受け、また個々の筋線維は正中部付近より対側の輪状軟骨付着部にかけて徐々に停止することが明らかとなった。 2.成犬の下咽頭収縮筋の凍結横断切片をATPase染色し筋線維タイプ分類をおこなった。甲状咽頭筋ではタイプ1線維が13.0〜24.3%、タイプ2線維が75.7〜87.0%と速筋であるタイプ2線維が優位なのに対し、輪状咽頭筋ではタイプ1線維が69.9〜76.1%、タイプ2線維が23.9〜30.1%と遅筋であるタイプ1線維が優位であり、対照的な筋線維タイプ構成を示した。また筋線維タイプごとの筋線維径を測定すると甲状咽頭筋ではタイプ1線維が30.9±5.8mum、タイプ2線維が43.2±9.7mumであり、輪状咽頭筋ではタイプ1線維が27.2±9.1mum、タイプ2線維が30.1±8.9mumであった。いずれの筋においてもタイプ2線維はタイプ1線維より径が大きかった。また甲状咽頭筋と輪状咽頭筋を比較すると、いずれの筋線維タイプにおいても甲状咽頭筋の線維径が大きかった。
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