嚥下運動に関するこれまでの一連の実験によって、1)嚥下運動のパターン形成機構は、脳幹(主に延髄)に存在すること、2)嚥下運動の惹起には上喉頭神経、舌咽神経のいずれかよりの末梢性入力が必要であること、が判明した。嚥下における口腔期への円滑な移行には延髄嚥下中枢への皮質の関与が考えられる。そこで皮質における嚥下関連領野の部位の同定とその機能を明らかにするために本研究を行った。まず嚥下のパターン形成機構が存在すると思われる延髄小細胞性網膜様体で嚥下関連ニューロンを記録し、その部位にWGA-HRP溶液電気泳動的に微小注入することのよって逆行性追跡法により皮質の嚥下関連領野を同定した。標識された細胞は両側の皮質の眼窩回吻側部に限局しており、この部位を大脳皮質嚥下関連領野と考えさらに以下の実験を行った。眼窩回吻側部に種々の条件の電気刺激を加え、喉頭粘膜電気刺激によって反射性こ惹起された嚥下頻度の増減を観察し、皮質入力の延髄嚥下中枢に及ぼす影響について検討した。例えば約30Hzの刺激頻度で皮質刺激を加えた時には嚥下の頻度は増加する傾向が認められ、約80-100Hzで刺激した時には嚥下の頻度は減少する傾向が認められた。このように大脳皮質の刺激頻度や刺激強度によって、反射性嚥下が影響を受けることから、延髄嚥下中枢が大脳皮質より何らかの調節を受けていることが示唆された。皮質-延髄投射の生理的意義は、嚥下中枢の閾値を変化させ、末梢知覚入力による嚥下の起こりやすさを調節することである。
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