内リンパ水腫が主要病態であることが明らかとなっているメニエール病の患者を対象として、その臨床診断における誘発耳音響放射(EOAE)の有用性について検討した。 (1)一般に聴力が30〜40dBを越える中等度以上の感音難聴耳ではEOAEは検出されないとされているが、メニエール病患者ではその様な中等度以上の難聴を認めてもEOAEが検出されることが多いことが判明した。 (2)EOAEの周波数分析を行い、得られたパワースペクトラムにおいて最大のピークを示す周波数をEOAE主周波数とし、これを指標に検討を行った。その結果、メニエール病患者におけるEOAE主周波数は、聴力正常耳のそれと比較して明らかに低くなる傾向を認めた。 (3)実験的に内リンパ水腫の軽減が報告されている浸透圧利尿剤のイソソルビドやグリセロールの投与により、メニエール病患者ではEOAE主周波数が低い周波数からより高い周波数へ変化する例が認められた。しかも変化を示した症例の薬剤投与後の聴力は、ほぼ正常に近いレベルにまで改善していた。 (4)聴力の改善、悪化など、メニエール病の病態の変化に応じて経時的にEOAEの検討を行ったところ、発作後など低音障害型難聴を示す時では、EOAE主周波数は低い周波数であるが、聴力の改善と共により高い周波数成分のピークが伸び、聴力がほぼ正常にまで改善すると、EOAE主周波数は低い周波数からより高い周波数へ変化する傾向を認めた。この様にEOAE主周波数の変化は、メニエール病の病態の変化に対応していた。 以上より、臨床的にメニエール病の内リンパ水腫、特に聴力変動が認められる症例における内リンパ水腫の補助診断法としてEOAEが有用である可能性が示唆された。
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