耳管の弾性、すなわち耳管コンプライアンスの変化が各種耳管疾患、中耳疾患においてその病態に関与していると推測されている。しかしながら、現在まで耳管コンプライアンスの測定は気流抵抗法という間接測定法しかなされていない。この方法では鼓膜、中耳腔、耳管骨部の状態により影響をうけ、その目的である耳管軟骨部のコンプライアンスを直接反映していない場合も多く存在するものと考えられる。そこでバルーンを直接耳管軟骨部に挿入し、系に水を注入する事により直接同部のコンプライアンスを測定する方法を開発した。耳管コンプライアンスの要因を明らかにする目的で体位(臥位及び座位)による変化、耳管付着筋の緊張による変化(覚醒及び全身麻酔状態)を検討したところ、体位の変化、付着筋緊張の変化により測定値はかわらず、本法においては主に耳管軟骨の弾性を計測しているものと推測された。次に経年的変化を検討し、各種耳管、中耳疾患の病態への関与を明らかにする目的で、20才から40才までの正常例と60才以上の正常例、耳管開放症、耳管狭窄症、滲出性中耳炎例との測定結果を比較したところ、20才から40才までの正常例に比較して60才以上の正常例では有意に測定値が高値であり、成人から高齢者への経年的変化として耳管コンプライアンスが高くなるものと考えられた。また60才以上の耳管開放症例では正常高齢者のコンプライアンス値に比較して更に高値であり、逆に耳管狭窄症、滲出性中耳炎例では有意に低値であった。この結果は耳管コンプライアンスの変化が耳管疾患、中耳疾患の病態に関与している可能性を示唆しているものと考えられた。
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