検眼鏡的に網膜に異常のないことを確認した成熟有色家兎を用い、全身麻酔下に実験を行った。硝子体切除を行った後に、ガラス製毛細管を網膜表面に当て、小量の眼内潅流液を網膜下に注入することにより網膜剥離を作製し、網膜切開を施し、神経網膜の下でシリコンブラシを用いて網膜色素上皮を定量的に擦過、除去した。術直後、7日後、14日後、21日後、28日後に眼底写真撮影、蛍光眼底撮影を行った。光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡により組織学的に観察した。光学顕微鏡では、障害部位の網膜色素上皮細胞の細胞数をカウントし、その増加の状態を観察した。b-FGF投与群として、1mugのb-FGFを術直後に硝子体腔に注入し、細胞数の増加状態を非投与群と比較した。再生している網膜色素上皮細胞は28日目迄は、ほぼ直線的に増加しており、手術後28日の時点で、細胞数は非手術眼の約4倍となっていた。走査型電子顕微鏡観察では、14日目までに欠損部は網膜色素上皮細胞で覆われていた。透過型電子顕微鏡により、再生網膜色素上皮細胞の胞体は小型で、色素顆粒に分布に変化が観察された。術7、21日後の時点で、細胞数は、b-FGF投与群が非投与群に対し有意に増加していた。家兎を用いた実験系では比較的早期に網膜色素上皮の修復が行われた。網膜色素上皮障害眼での網膜色素上皮の再生過程の定量に初めて成功した。b-FGFは、本実験系において網膜色素上皮の修復を促進することが判明した。この網膜色素上皮障害モデルは、網膜下病巣の除去手術後の網膜色素上皮の動態の観察や、治療法を検索するために有用であると考えられた。
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