白内障発生の要因としては、紫外線、活性酵素、過酸化脂質、などの他、ステロイドなどの樣々な化学物質への暴露などの関与も非常に大きいとされている。 その際、同一様環境下にても白内障が発生する固体と発生しない固体が存在することが知られている。特にグルタチオン-s-トランスフェラーゼ(外因性毒性物質をグルタチオン抱合い解毒する酵素)(以下GST)には遺伝子欠損に基づくアイソザイム不活性型が存在する。そこで本研究に於いては、果たしてこの様な疾患感性の違いがGST1欠損者とGST1保持者に依る外因性物質に対する代謝能力の相違に関連するものか否かを分子生物学的手法用いて検索した。原因の明らかな白内障を除いた、老人性白内障患者(138名)及び、同地域、同年齢域の白内障非発生者(62名)合計200名を対象とした。対象者の血液よりDNAを抽出し、GST1遺伝子欠失の解析をPCR(polymerase chain reaction)法により行った。健常者と白内障患者に於けるGST1陰性者の分布を比較検定した結果、白内障患者には有意にGST1遺伝子の欠損者が多いことが判明した。 (_<chi>2=11.65、rho=0.0006、オッズ比=2.91、95%信頼区間=1.56-5.44) 尚、健常者におけるGST1遺伝子の欠損者の割合は酵素染色法での割合とほぼ同様であった。今後、分子遺伝学的手法を用いればGSTのみならず他の酵素に関する水晶体自体の危険因子の検索が可能になり、白内障発生原因である多数の内的因子の一つ一つが解明できる可能性があると思われる。この研究成果を昨年Investigative Ophthalmolopy and Visual Science誌に投稿したところ1回目の査読結果が返却され、H6年2月にrevised manuscriptを送付した。
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