近年、糖尿病罹患者数の増加に伴い、糖尿病網膜症による失明者も急増し、その予防、治療に関する基礎的、臨床的側面からの研究の重要性が叫ばれている。糖尿病網膜症は初期より青錐体系が障害され、後天的に色覚異常を示す網膜疾患として、これまで種々の臨床色覚検査を用いた報告がなされてきたが、さらに詳細な分析が期待される光学系を用いた視機能測定についての報告は少なかった。前年度、われわれは青色点滅背景光上の増分閾値測定による青錐体系感度曲線の測定をまず正常者に対して行い、加齢変化の検討を行った。今回は、この正常者の閾値曲線をもとに糖尿病者で得られる閾値曲線のパターンと網膜症の進行程度の関係を検討することが主な目的であった。そのために、中間透光体に混濁がなく、屈折異常がないか、あっても軽度で裸眼もしくは矯正視力1.0以上の糖尿病者38例に対して、検眼鏡的に網膜症の認められないもの(I群 20例)、単純網膜症群(II群11例)、前増殖糖尿病網膜症群(III群 7例)の3群に分けて同様の検査を行った。糖尿病者の結果は正常者と同様に点滅背景光の輝度の上昇にともない検査光閾値は急激な上昇を示したが、正常者に比較して曲線の立ち上がりはなだらかであった。また、網膜症の病期の進行にともない閾値曲線は全体的に上方へ偏位する傾向を示した。I群に関しては、さらに年齢別に30歳未満の群(7例)、40歳以上50歳未満の群(7例)、50歳以上の群(6例)の3群に分けて検討を行った。30歳未満の群はすべてインスリン依存性糖尿病(IDDM)で、40歳以上はすべてインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)であったが、IDDM群では40歳代のNIDDM群に比べ閾値曲線は上方へ偏位し、曲線の立ち上がりも急峻で、正常者で得られた年齢別のパターンと異なった結果を示した。II、III群のIDDMでもこの傾向を示すものがあり、IDDMでは、早期に青錐体系の機能に変化が現れることが示唆された。
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