本研究では成熟哺乳動物の網膜神経培養をおこない、特に網膜神経節細胞からの神経再生機構を明らかにすることを目的とした。本年度は成熟哺乳動物としてラットをもちい網膜神経組織を培養し、また同時に視神経切断後の神経節細胞の動向を検討した。麻酔下にて眼窩内で視神経のみを切断した。このとき蛍光色素(Dil)を視神経に注入し網膜神経節細胞を逆行性に標識した。1、3、5、7、11、15日間飼育後、視神経切断を行った眼球を摘出し、一部を蛍光顕微鏡下に観察した。また残りの網膜を組織培養法をもちい培養した。視神経切断後急速に網膜神経節細胞はその細胞数の減少が観察され、切断7日後を境にその減少速度は緩やかとなる結果を得た。また培養下では、切断1、3、5日後に摘出、培養した網膜で視神経節細胞からの再生はほとんど認められず、切断7日後に摘出し培養した網膜において神経突起の顕著な再生が観察された。これら再生神経突起は免疫組織染色にて神経節細胞からの再生突起であることが確認できた。また、切断7日後以降の網膜においても神経再生は促進していた。これらの実験より、視神経切断後に網膜神経節細胞は急速に変性、消失するが切断7日後からその減少速度は緩やかになり、同時に培養下で生存している神経節細胞から神経突起が再生するという結果を得た。成熟哺乳動物の網膜神経節細胞は軸索切断に適応して生存、軸索を再生するために7日間を要するとの新知見を得た。この研究の成果を平成5年6月の日本眼科学会にて概要を報告し、また同年10月の日本臨床眼科学会のシンポジウムにて講演、報告した。現在、この結果をまとめ、神経科学の専門誌に投稿中である。今後はこの培養系をもちい、培養液中に様々な物質を添加して神経再生を解析し、成熟哺乳動物網膜神経細胞の再生における至適な環境を探求することにより、神経再生機構を解明する予定である。
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