本研究では、種々の原因不明の眼表面炎症性疾患の角膜上皮障害にEpstein-Barrウイルス(EBV)が関与しているか否かを明らかにすることを目的とする。方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を利用して涙液中のEBVのDNAの有無を検索した。まず、方法の確立のため、濃度既知の単純ヘルペスウイルス培養液からウイルス液の希釈系列を作成して本法の検出感度を調べ、ついで実際に臨床診断として単純ヘルペスウイルスによる角膜上皮炎とされている症例の涙液から、本法で単純にヘルペスウイルスDANが検出されることを確認した。つぎに上記と同様にEBVのDNAの希釈系列液を作成してEBV検索における検出感度を調べた上で、特発性角結膜上皮疾患7例14眼、スチ-ブンス症候群8例16眼、眼類天疱瘡1例2眼、シェ-グレン症候群7例14眼の涙液中のEBVのDNAの有無を本法で検索した。また、対照として正常人5例10眼の涙液も検索した。このうち、特発性角結膜上皮疾患1例2眼の涙液中にEBVのDNAが検出され、これはEBV特異的プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーションでも確認された。一方、他の症例や対照群ではEBVのDANは検出されなかった。今回の結果から、原因不明のため特発性角結膜上皮疾患と一括してよばれている疾患群の中に、EBVが発症に関与している症例が存在していることが示された。これまではEBVが関与している眼表面炎症性疾患としてシェ-グレン症候群が報告されているにすぎなかったが、今回はじめて角結膜上皮疾患とEBVとの関連性を示した。現在、さらに対象症例を増やして検索しているところであり、本研究の継続によりEBVと眼表面炎症性疾患との関連性が解明され、ひいてはその治療法の開発に繁がるものと期待される。
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