1.前房水と水晶体上皮細胞のレチノイン酸(ビタミンA酸)定量について 老人性白内障患者16例16眼を対象とした。白内障手術時に血液の混入のないように約0.2mlの前房水を採取し、前嚢切開時に得られた前嚢より、水晶体上皮細胞を剥離し採取した。また術前に採血し、1mlの血清を分離した。定量に先立ち、これらのサンプルからヘキサンを用いてレチノイン酸を抽出した。ついで、逆相高速クロマトグラフィーを用いてレチノイン酸を定量した。その結果、前房水にはレチノイン酸が存在し、その濃度は23.3±2.3pmol/ml(n=8)であった。また血清中のレチノイン酸濃度は5.5±0.9pmol/mlで、その前房水/血清比は約4であった。一方、水晶体上皮細胞にもレチノイン酸が存在しその濃度は前嚢あたり8.7±3.6pmolであった。 2.前房水のビタミンA結合タンパクの検出について 前房水は同様に老人性白内障の手術時に採取した(8例8眼)。このサンプルからゲル濾過にてタンパク分画を分離し、これを蛍光スペクトラを用いて同定したところ340nmにピークを認めた。以上より房水中のレチノイド-結合タンパク複合体の存在が示唆された。また前房水を電気泳動(SDS-PAGE)で分離し銀染色にて観察したところアルブミンバンドが最も明瞭に染色された。さらにBallの方法を用いそのアルブミン量を定量したところその濃度は6.4±2.9mg/dlであった。以上の結果より、房水循環はレチノイン酸を主としてアルブミンとの複合体の形で水晶体上皮へ供給していることが示唆された。また、レチノイン酸濃度の前房水/血清比より、房水のレチノイン酸は血液循環のみならず、眼内から由来していると推察された。
|