研究概要 |
角膜炎には未だ原因不明のものが数多くある。一方、重篤な角膜炎を引き起こす原因の一つに単純ヘルペスウイルスがあるが、これ以外のヘルペス属ウイルス(VZV,EBV,CMV,HHV-6)と角膜炎との関連についての研究はあまりなされていない。この関連を調べるには、病変部位である角膜からのウイルスまたはウイルス関連物質の検出が必要であるが、角膜から得られるごく微量の検体から同時に複数のウイルスに関する検索を行うのは不可能であった。しかし、近年開発されたPolymerase chain reaction(PCR)法により微量検体からのウイルスゲノム検出が可能となった。今回、このPCR法の利点を活用し原因不明の角膜疾患に対してヘルペス属ウイルスについての広い検索を行った。 対象は(1)表層角膜炎16眼、(2)瘢痕性角膜炎4眼、(3)樹枝状角膜炎8眼、(4)角膜潰瘍8眼、(5)角膜ぶどう膜炎6眼、(6)角膜移植時に得られた角膜実質炎2眼であった。(1)(2)(3)(4)に関しては角膜擦過を行い、(5)は角膜潰瘍を認めた1例のみ角膜擦過および前房水採取、他の5例は前房水採取のみとし、(6)は混濁部位の組織片を採取した。これらの角膜擦過、前房水、組織片からDNAを抽出しHSV,VZV,EBV,CMV,HHV-6及びinternal controlとしてbeta-globinに対するprimerを用いてPCRを行った。その結果、微小樹枝状角膜炎1眼、樹枝状角膜炎3眼、角膜潰瘍2眼からHSV DNAが、顔面に皮疹を伴わない角膜潰瘍1例からVZV DNAが、1例の角膜ぶどう膜炎の前房水からEBV DNAが検出された。今回の症例からはCMVおよびHHV-6は検出されなかった。 今回PCR法を用いて、HSVによる微小樹枝状角膜炎、顔面に皮疹を伴わない非典型的なVZVによる角膜潰瘍など診断困難な症例から原因と思われるウイルスを検出できた。また、角膜ぶどう膜炎の一部にEBVが関連している可能性が示唆された。今後も更に症例数を増やし検討してゆく予定である。
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