軟骨から構成される長管骨の原基は石灰化し軟骨内骨形成に関与することが知られている。一方一生涯軟骨として存在する気管軟骨などの永久軟骨も加齢に伴って石灰化する事実が報告されている。しかし永久軟骨が生体の中でいつどのように石灰化するのか、あるいは石灰化の際に骨形成を伴うのか否か等についての詳細は不明である。本研究ではラットを材料とし、気管軟骨の石灰化を長管骨の軟骨内骨形成における軟骨の石灰化と比較検討してその特性について明らかにすることを目的とした。 新生児、生後2周、4週、6週、8週、10週、及び12週齢のWistar系ラットの気管軟骨を摘出し固定後、パラフィンに包理した。連続切片をつくり隣接の切片を以下の方法で染色し気管軟骨の石灰化の過程を検討した。(1)von Kossa染色(石灰化部位の染色)。(2)アルカリ性ホスファターゼ活性の組織化学的検索。(3)I型及びII型コラーゲンに対する免疫染色。(軟骨の石灰化に伴う骨形成、すなわち軟骨基質に特有なII型コラーゲンがI型コラーゲンからなる骨基質に置換される現象の有無について免疫組織学的に検討した)。(4)アルシアンブルー染色(グリコサミノグリカン-プロテオグリカンに対する染色)。(5)コンドロイチン4硫酸、コンドロイチン6硫酸、及びケラタン硫酸に対する免疫染色。 ラットの気管軟骨においては中心部の基質が生後10週齢頃に石灰化することが明らかになった。長管骨の石灰化する直前の成長板軟骨はアルカリ性ホスファターゼの活性を示すが、気管軟骨では石灰化に伴うアルカリ性ホスファターゼの活性は認められなかった。また成長板軟骨とは異なり、気管軟骨の石灰化には骨の形成は伴わなかった。さらに石灰化した気管軟骨にはグリコサミノグリカン、特にコンドロイチン4硫酸が増加していた。本研究の結果から、気管軟骨はその石灰化過程において成長板軟骨とは異なる基質の特性を有することが示唆された。
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