研究概要 |
近年歯科臨床において、歯科矯正は重要となってきたが、歯の移動に伴う痛みは深刻な問題の一つである。本研究では、外部からの侵害刺激の際に中枢神経系に発現するとされる c-fos遺伝子の発現を指標として、歯の移動に伴う中枢神経系である二次ニューロンに認められる変化を、免疫組織科学的手法により解明することができた。 実験には、ラットの上顎片側臼歯歯間にゴム片を挿入し、歯の移動モデルとした。ゴム片挿入から 0、1、2、4、8、12、24時間後に動物を潅流固定し、脳幹を摘出、凍結切片を作製した。抗c-fos血清、さらにHRP標識二次抗体を用い免疫染色し、光学顕微鏡にて観察した。c-fos陽性細胞の分布を明らかにし、さらに時間経過にともなうその分布領域の変化と、その細胞数の増減についても明白にした。 結果は、以下の通りである。 (1) ゴム片挿入の1時間後から、同側の三叉神経脊髄路核尾側亜核(STNC)の、神経細胞体内の核に限局してc-fos陽性反応を認め、24時間後にはc-fos陽性細胞はすべて消失した。 (2) c-fos陽性細胞の分布は、STNC表層のI層と、II層の外層のそれぞれ正中寄り3分の1に限局していた。 (3) ゴム片挿入と同側のc-fos陽性神経細胞の数は、4時間目に極大に達し、24時間後には消失していた。 (4) 一方、ゴム片挿入の反対側では、 1,2,4時間後にのみ、実験側と同じ部位のSTNCに、c-fos陽性細胞を認めたものの、その数は少なく、分布はまばらであった。 以上の結果より、c-fosは歯の移動に伴う痛みに関係があることが示された。さらに、STNCは、痛みの調節に関連が深いことも明白となった。
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