研究概要 |
幼若期から老齢期までのラット加齢モデルの顎関節を走査および透過電子顕微鏡で観察した結果,加齢に伴う構造変化に関する新知見が得られた.下顎頭軟骨の線維層は,新生仔期には細胞成分が豊富な薄層であったが,切歯咬合の開始期頃からI型コラーゲン細線維からなる線維性基質が増加した.線維層の関節面(下顎頭関節面)は,基本的に細線維束とこれを被覆する細線維網とで構成されていたが,成熟および老化とともに,細線維束は密に,細線維網は疎に変化した.また,成熟期以降の関節面には,細線維の断裂,線維層細胞の露出や網状の細線維塊などの特異的な構造物が出現した.これは,咬合負荷の増大に伴う関節面の緩衡構造の変化を示すと考えられる.線維層以外の下顎頭軟骨の部分は,成熟期後期までは成長軟骨としての特徴を有しており,基質線維(II型コラーゲン細線維)の基本構築は網状を呈していた.加齢とともに網状構築中に細線維束が出現,増加し,老齢ラットでは,基質の大部分は密に配列された細線維束で構築されていた.老化した下顎頭軟骨では肥大層が消失し,成長軟骨としての特徴は失われていた.軟骨層の軟骨細胞群の主体を占めるのは通常の硝子軟骨細胞で,軟骨層下部には軟骨下骨と接する石灰化軟骨帯が介在していた.細線維の直径は,加齢とともに増加する傾向が認められた.下顎窩軟骨の加齢に伴う構造変化は,基本的に下顎頭軟骨に準じた.関節円板の上下関節面の基質線維構築は,基本的に下顎頭線維層と同様であったが,前後方向,内外側方向あるいは放射状に配列された細線維束が顕著に認められた.細線維構築の多様性は,咀嚼運動時に発生する咬合圧負荷に対する耐摩耗構造,あるいは関節包や外側翼突筋の牽引力に対する抗張力構造が,顎関節構造物に存在することを示唆する.今後,この観察結果を基本として,人体における顎関節の超微構造の加齢変化についても観察,検討する予定である.
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