生後早期のラット耳下腺の終末性集落と腺房には、生後1週頃まで粘液細胞がみられる。この粘液細胞に含まれる分泌果粒の形態と性状が耳下腺の発達に伴ってどの様に変化していくか、また粘液細胞が漿液細胞に分化するか否かについては未だに不明である。粘液細胞の動態を調べる目的で、生後3-10日のWistar系ラットを用いて微細構造の観察および抗Protein B1抗体による免疫染色を行い、以下の所見を得た。 粘液細胞に含まれる分泌果粒は、電子密度の低い明るい果粒や、明るい基質の中に電子密度の高い芯をもつ二相性の果粒であった。生後3日頃は明るい果粒が多数であったが、時間の経過とともに二相性の果粒が数を増していった。また二相性果粒の芯の部分の電子密度が徐々に高くなり、芯の大きさも増していったため、漿液果粒と非常に似た形態を示すものがみられるようになった。生後7日頃には電子密度の低い明るい果粒や二相性を示す粘液果粒と、均一で高い電子密度の漿液果粒が1個の細胞に混在している像が観察された。抗Protein B1抗体による免疫染色を施し光顕観察を行ったところ、生後3日より陽性細胞が認められ、時間の経過とともに陽性細胞は数を増していった。電顕レベルで観察したところ、漿液細胞は抗Protein B1抗体によって金粒子で票識された分泌果粒が生後3日より認められ、その後徐々にに数を増していった。しかし粘液細胞に含まれる明るい果粒や二相性の果粒には金粒子は認められなかった。 微細構造の観察において、粘液果粒が時間の経過とともに漿液果粒に似た形態へ変化していったこと、また粘液果粒と漿液果粒が1個の細胞に混在している象が観察されたことから、粘液細胞が徐々に漿液細胞へと変化していく可能性が考えられる。しかし粘液果粒と漿液果粒はその形態のみならず果粒の成分にも違いがあり、少なくとも粘液果粒が粘液細胞特有の形態を示している時にはProtein B1を含まないことが明らかになったと思われる。
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