ヒト顎関節周囲に広く存在する翼突筋静脈叢については明確な見解を得ていない。今年度カッティングマシーンにて顎関節周囲の厚切り切片を作成し、翼突筋静脈叢を中心に3次元立体構築を行う事を目的に観察を行った。 その概要ならびに実績は次の通りである。 1.材料:本学解剖学研究室保存の遺体36体72側を用いて行った。 2.方法:翼突筋静脈叢を含む顎関節周囲を一塊として摘出し、口蓋を基準とし4mmの厚さで連続水平断を行い実体顕微鏡下で翼突筋静脈叢とこれに流入する主静脈を中心に肉眼・光顕的観察を行った。 3.結果:翼突筋静脈叢は内側・外側翼突筋と側頭筋との間に広がり上方は頭蓋底まで、前方は上顎骨体後面と、後方は下顎枝後縁まで達していた。さらに顎関節周囲の静脈系の流入は、顎関節外側前方部から後方部のものは顔面横静脈と浅側頭静脈に、顎関節内側前方から後方のものは翼突筋静脈叢へと、これまでの報告と同様に流入していた。またこの翼突筋静脈叢と外側突筋の周囲組織内には、これまで存在が明確に定義されていない動静脈吻合が確認された。 本年度得られた新知見は、25体37側に関節円板および下顎頭の異常の有無に関係なく、上方を側頭骨に、前方を上顎結節に接する位置に長径約30mm、短径約15mmの、さらに内部にはこれに流入する静脈により梁柱を形成する袋状の静脈が存在し、管壁構造は中膜が欠如するか存在しても僅かで、平滑筋組織もほとんど確認できず静脈瘤様を呈していたことである。今後、ヒト翼突筋静脈叢を中心とした咀嚼系静脈循環路の解明を目的に研究を行っていく。 本研究の概要は、第98回日本解剖学会総会および第49回日本解剖学会九州地方会にて報告を行った。
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