本研究の目的は、顎運動を最終的に支配する咀嚼筋運動ニューロンに対する、口腔顔面感覚の直接的役割を検討することである。そこで、猫を用い、咀嚼筋運動ニューロンに対する前運動ニューロンのうちのいくつかが存在している、三叉神経吻側核の背内側亜核ニューロンに細胞内記録法、細胞内HRP注入法を施した。具体的には、背内側亜核ニューロンの末梢感覚受容野、感覚種を同定した後、電気泳導にてHRPを細胞内注入する。脳幹部を薄切した後、HRPを呈色し、運動核内に存在する背内側亜核ニューロンの軸索終末部を切り出し、電子顕微鏡的観察用に、再固定、エポン包埋、連続超薄切片作成、染色を行った。 即順応性で低閾値機械受容性に反応し、上下顎の無毛部口唇に受容野を持つ背内側亜核ニューロンは、三叉神経運動核の開口筋運動ニューロン群に投射し、以下の様な軸索終末部形態を呈した。連続切片にて観察した49個の終末の総ては、細胞体または樹状突起にシナプス接合するシナプス前終末であった。その多くは細胞体または近位樹状突起と接合し、遠位樹状突起とのものは少数であった。一つのシナプスが、二つの樹状突起、または一つの樹状突起と一つの細胞体と接合するものであった。また終末には卵円型、もしくは楕円形のシナプス小包が存在し、有芯小包はほとんど認められなかった。一方、シナプス前膜と後膜の肥厚は、両膜差がなく対称性であった。 以上の結果は、これまでの知見から少なくともこのニューロンに伝えられた情報は、他の神経からの影響(修飾)をあまり受けることなく開口筋運動ニューロンに伝えられ、開口運動に抑制的に働く可能性を示唆するものと考えられる。 本研究によって顎運動の神経機構の一端が解明され、また同時に上記の方法が複雑な神経機構の解明に大変有用であることが示されたと言える。今後一層研究を進め、歯科基礎医学の発展に貢献できるよう努力したい。
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