左迷走神経背側核内で前迷走神経幹刺激に対し逆行性応答を示すニューロンの活動を68例記録した。このうち自発性発火を有する56ニューロン中に、迷走神経肝臓枝刺激に対して興奮性の応答を示すニューロンが2、抑制性の応答を示すニューロンが35、無応答のものが19見いだされた。興奮性応答を示す2ニューロン中1ニューロンに3.6%高張食塩水の門脈内注入を行った結果放電頻度の増加が見られた。抑制性応答を示す35ニューロン中26ニューロンに3.6%高張食塩水の門脈内注入を行った結果、16ニューロンが放電頻度の増加を、また1ニューロンが減少を示した。また肝臓枝刺激に無応答であったニューロン中8ニューロンに3.6%高張食塩水の門脈内注入を行ったがいずれのニューロンもこの刺激には応答しなかった。一方右背側核ニューロンでも後迷走神経幹刺激に対し逆行性応答を示すニューロンの活動を記録した。その結果、迷走神経肝臓枝刺激に対して応答を示すニューロンの多くは左背側核ニューロンと同様抑制性の応答を示したが、門脈内食塩水注入に対し応答を示すニューロンの数は左背側核よりも少なかった(22ニューロン中5ニューロンが増加を示した)。この結果より、腹部へ軸索を伸張している迷走神経背側核ニューロンの中に迷走神経肝臓枝から抑制性の入力を受け取っており、なおかつ肝門脈内への高張食塩水注入で放電頻度の増加を示すニューロンが存在することが明らかとなった。このことより、迷走神経背側核ニューロンは迷走神経肝臓枝より少なくとも1つの抑制性シナプスを経て肝門脈浸透圧受容器からの入力を受け取っていると考えられる。 また胃内への高張食塩水注入によるFos蛋白の発現を延髄および橋で探索した結果、孤束核、最後野、背側核、結合腕傍核ニューロンにFos蛋白の発現が見られ末梢の浸透圧受容器の中枢内投射について解剖学的見知からもさらに確認することができた。
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