研究概要 |
う蝕発症に重要に関わるS.mutansの菌体表層蛋白質抗原(PAc)は、う蝕用ワクチンの候補として注目されている。 そこで申請者は、このPAcを用いてより最小単位で免疫原性の強く安全性の高いうう蝕用ワクチンを開発することを目的とし実験を行った。 PAc遺伝子工学的手法を用いて7つに分割しその断片中に存在するT細胞エピトープの解析を行なった。 その結果アラニンの豊富な繰り返し領域を含むPAc-2フラグメントに、多数のT細胞エピトープが存在していることが認められた。 アラニンの豊富な繰り返し領域はう蝕発症の起点となるS.mutansの歯への付着に関わっているという他のグループによる報告もあることから、この領域をカバーするアミノ酸残基4個をオーバーラップしたアミノ酸残基19個のペプチドを合成し、その合成ペプチドに存在するT細胞エピトープの検討を行なった。 PAcの自然抗体を有する被験者由来の末梢血単核細胞と合成ペプチドを用いてT細胞の増殖実験を行なうと、PAc(アミノ酸残基番号,196-214),PAc(211-229),PAc(241-259),PAc(301-319),PAc(407-425)の5つのペプチドにおいてT細胞の増殖活性が認められた。 5つのペプチドのアミノ酸配列の共通性を検討すると、Y-AKL--YQ、NAAN-A-YQ、NA-AKAAY--AVAAN の3つの共通アミノ認められた。 よって合成ペプチドにはこの共通アミノ酸配列を含んだT細胞エピトープが存在していることが示唆された。 また同時にこの共通アミノ酸配列を含むアグレトープも存在していることが示唆された。 このようなT細胞エピトープとアグレトープおよび申請者より解析中であるB細胞エピトープを含めてアミノ酸配列を設計することにより、目的としたより最小単位で免疫原性の高く安全性の高いう蝕用ワクチンを開発することができる。 今後より詳細な検討のために、この共通アミノ酸配列を含んだペプチドを合成し、T細胞エピトープとアグレトープの解析を行う予定である。
|