研究概要 |
頭頚部癌の放射線治療では、照射野内に大唾液腺が含まれるケースが非常に多い。大唾液腺に対する放射線照射は、唾液分秘を単純に障害させるだけでなく、種々の唾液成分にも影響をおよぼしていると考えられている。特に免疫反応に関与する唾液の蛋白質成分の変化については、ほとんど調査研究がなされていない。そこで本研究は放射線照射による唾液中の蛋白質成分の変化から口腔内環境におよぼす影響を調査した。 【材料と方法】研究は代表者が確立している実験動物(ラット)唾液分秘障害モデルを用いて行なった。SPFのSD系ラットに対して、対象とする大唾液腺だけを残す外科的処置を行なった実験群を多数用意した。そして一定期間後、頭頚部領域のみにX線照射(22Gy,32Gy-各1回照射)を行ない、定期的に唾液を回収し、唾液分秘量や成分変化を調査した。 【結果およびまとめ】頭頚部にX線照射することで、唾液排出時間の遅延が認められた。特に32Gy照射実験では、耳下腺ならびに顎下(舌下)腺障害群ともに非照射群との間で有意の差が認められた。そしてその排出時間差は各唾液腺によって異なり、耳下腺障害群では2.6倍であったのに対し、顎下(舌下)腺障害群では1.4倍と小さかった。同様に唾液中の総蛋白質量の測定を行なった実験でも、X線照射による唾液腺障害によって、蛋白質量の減少がみられた。しかし耳下腺障害群では、照射線量に応じて有意の減少が認められたのに対して、顎下(舌下)腺障害群では、約10%ずつの減少がみられたものの、有意の差は認められなかった。以上の結果より、各唾液腺によってX線感受性がこ異なることが改めて確認された。そしてX線照射された唾液腺から排出される唾液の成分を調査することで、その唾液腺の障害の程度が容易に判定出来る可能性が示唆され、今後の臨床応用に十分な期待が出来るものとなった。
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