本研究はPCR(Polymerase Chain Reaction)法の応用により、潜伏状態にあるサイトメガロウイルス(CMV)遺伝子の検出を実現するとともに、その検出方法を用いてCMV潜伏の標的細胞を明らかにした。増幅領域として、CMV株間で比較的変異が少なく、ヒトゲノムあるいは他のヘルペスウイルスと相補性の低いCMV AD169株におけるHindIII断片のb、E、J(それぞれ65K phosphoprotein/pp65、immediate early protein/IE、150K phosphoprotein/pp150を発現)を選択した。各領域において広領域を増幅するプライマーペア-を用いたPrimaryPCR法による増幅産物を鋳型として、その内側に設けたプライマーペア-でNestedPCR法を行った。大半はPrimaryPCR法では陰性であったが、NestedPCR法により陽性所見が出現した検体がみられた。しかし、同一検体でも3領域すべてで同時に陽性あるいは陰性の結果は得られなかったが、このようなPCR産物に対してはDNAシークエンサーを用いた塩基配列の決定を行い、1領域でのみ検出された産物も明らかにCMV遺伝子であることを確認した。その結果、陽性率は唾液腺で28.0%、末梢血単核球で85.2%となり、CMVは他臓器と比較すれば唾液腺に臓器特異性は高いが、末梢血単核球が潜伏の標的細胞であることが証明された。また、CMV特異蛋白の免疫組織学的検索を追加した。以上のことにより、宿主が免疫不全に陥っていない唾液腺では、容易にはCMV特異蛋白の発現は起こらないが、潜伏状態にあるCMV遺伝子は唾液腺に存在しやすい傾向があることが判明し、CMVのレセプターと唾液腺組織との特異的な相互作用が推定され、その解明が今後の課題である。
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