当該年度の研究ではまず多数の家兎の咀嚼運動データをなるべく環境を変えずに取るために、既存のパーソナルコンピューターにADコンバータ-を組み込み、専用のアンプリファイヤーを作製し、飼育室内でデータが取れるようにした。15羽の家兎を実験に供し、7羽に習慣的咀嚼側に対する顎関節円板の前方牽引(同側群)を、6羽に習慣的咀嚼側の反対側に同様の手術(対側群)を、2羽にshamoperation(対照群)をそれぞれ施した。術後4週間、毎週ペレットによる咀嚼運動データを記録した。術後の疼痛による影響を排除するため、そのまま咀嚼させたデータと鎮痛剤静脈内投与後のデータを取り比較した。4週間目に動物を屠殺し、病理組織標本を作成した。4羽の動物が実験期間終了前に死亡した。対照群では実験前後の咀嚼運動に大きな変化はみられなかったが、実験群では同側群、対側群ともに咀嚼サイクルの延長、開口相、かみしめ相の延長傾向がみられていた。いずれの群でも鎮痛剤投与による咀嚼運動の変化はみられなかった。また、同側実験群と対側実験群の間に明らかな差はみられなかった。しかし、病理組織学的には術後4週の時点で円板の穿孔を来さずに円板転位が起こっていたのは同側群の3羽のみであり、他はすべて円板が穿孔し、骨、軟骨の変化が進んでいた。従って、円板の転位を起こさせる術式や経過観察期間などに大きな問題が残ったため、未だ、その結果を学会発表するには至っていない。また、サルを用いて家兎と同様に円板を前方牽引する実験を行ったが、1頭目の動物では牽引糸の張力が不足であったためか十分な牽引が得られず、円板の転位を惹起するに至らなかった。現在、より丈夫な牽引糸を用い、さらに実験的咬合異常も加えての実験を継続中である。
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