近年、癌治療において、その治療法の効果に加えて、腫瘍の環境因子の影響が注目されている。腫瘍の環境因子には、低酸素及び低pH、低栄養などの因子が含まれる。最近pH測定では、細胞外pHに加えて細胞内pH測定が可能になり、細胞内pHと、細胞外pHと各治療法の関係及び細胞内代謝と細胞増殖に対する関係の研究が始まり注目を浴びだしている。本研究では、これらの研究に先駆け、培養細胞の低pH環境下での培養時間に従って、温熱致死効果の低pH因子による影響を明らかにするとともに、それぞれの低pH環境下での培養時間における細胞内pHの変化を測定し、細胞内pHと温熱致死効果との関係を調べることを目的として行った。まず、CHO細胞を低pH下(pH6.7)にて培養を行い、細胞の増殖率の変化を調べると、培養開始ご直後では、正常pH下における増殖と比較しおよそ2倍の増殖率低下を示したが、8週間まで培養を行うと増殖率の増大が認められた。これは、長時間の低pH下培養による細胞のアダプテーションの現れだと受け取れた。温熱療法では、低pH下にて温熱処置を施すと、その致死効果が増大する、いわゆるpH効果があることが知られている。次に、CHO細胞を低pH下(pH6.7)にて8週間培養を行い、pH効果を調べると、その減少が認められた。そこでこの低PH効果の減少が、低pH下における培養開始後、何日でpH効果が低下が認められるかを調べると、これは、低pH下培養3時間にて、pH効果が低下が示されることがわかった。低pH下培養の時間の変化に対して、細胞内pHの変化を細胞内pH測定様モノクロメーター(CAM220)にて観察を行った結果、観察時間を通じて細胞内pHの変化を認めなかった。以上より細胞内pHの変化と、低pH下培養による増殖率の変化、また、pH効果の変化とは関連しないことが明らかとなった。
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