ラット顎下線に1%DMBA/オリーブオイル溶液を含んだ歯科用ボンディングスポンジを埋入し、腫瘍発生過程を病理組織学的、免疫組織化学的に検索した。 正常顎下線において、K8.12は線条部、排泄導管に強陽性で、腺房は弱陽性を示し、顆粒管は陰性である。S-100蛋白質は顆粒管のpilar cell、transition cellおよび線条部に陽性を示し、EGFは顆粒管の顆粒に陽性を示した。 発癌初期に、腺房細胞は消失し、残存排泄導管は異常増殖を示し、導管基底細胞の核に高率なPCNA陽性像、H^^3-thymidine取込み像を認めた。この時期、顆粒管の顆粒は消失し、形態的に導管様構造に変化するとともに、EGFは陰性化し、K8.12、S-100蛋白が陽性へと変化する。発癌剤埋入後4週でスポンジ周囲を、破壊された導管の残存細胞が増殖したと考えられる角化袋胞様構造物が取り囲み、6週以降、角化嚢胞様構造、導管様構造に異形成を伴う細胞が認められ、これらの基底細胞ではPCNA陽性およびH^^3-thymidineの取込みを示す核の顕著な増加が認められ、12週以降の全例で、偏平上皮癌を認めた。 これらの所見より、本発癌方法により、短期間に同一組織型の腫瘍が得られることが証明され、唾液腺腫瘍の母細胞は全ての導管系細胞に存在すると考えられた。今後、唾液腺腫瘍の母細胞として旺盛な増殖を示す細胞とそうでない導管を構成する細胞に、いかなる細胞学的な差異が有るかをさらに検索することが唾液腺腫瘍の成因を知る上で必要であろう。
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