近年、コンポジットレジンの象牙質への接着は、酸処理材とボンディング材との間に前処理材を使用することにより、飛躍的に向上している。これらの性能は、機械的、あるいは形態的な面から評価されているが、化学的な面からの評価ほとんど行われていない。我々は象牙質より抽出したコラーゲンを処理材として作用させ、FT-IRを利用した分析によって化学的な接着機構を解明することを試みた。象牙質の酸処理材としては、従来より広く使用されているリン酸溶液、また最近の象牙質接着システムに付属している各種クエン酸溶液、前処理材としてはSAプライマー、HEMA等が実験に使用された。その結果、まず37%リン酸による処理では、コラーゲンの吸水性が高くなり、さらにSAプライマーの処理を加えると、コラーゲンとプライマー間にカルボキシル基の二量体を形成することが推測されるような所見が得られた。これは、FT-IRのスペクトル分析において、990cm^<-1>付近に新たなピークが出現したことに基づくものである。その他の酸処理材又は前処理材については、顕著な変化は認められなかった。しかしながら、コラーゲンは多くのアミノ酸によって構成されており、非常に複雑なスペクトルを示すため、スペクトルに変化のないことが、化学的な相互作用がないということに、必ずしも結論付ける事は出来ない。象牙質コラーゲンを構成する各アミノ酸の分析、さらには直接象牙質研磨面を処理した場合の赤外吸収スペクトルの分析(反射顕微FT-IRによる)を現在行っているところであるが、この件に関してはデータの分析に時間を要するため平成5年度内に報告することは困難である。
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