研究概要 |
歯周病原因菌の宿主への付着は、歯周疾患の発症の第一のステップと考えられている。そこで、申請者は、歯周病原因菌のひとつであるFusobacterium nucleatumの歯肉溝白血球への付着を検索する上で,その付着因子の多様性に着目した。まず,この菌の凝集素に対する抗体を用いて,F.uncleatum19菌株での付着因子の検索を行った。その一方で,この菌とStreptococcusとの共凝集に着目し,付着因子の多様性についての検討を行い,以下の知見を得た。 1.F.nucleatum ATCC 10953株から精製したアルギニン感受性赤血球凝集素に対する抗体を用い,他の菌株についてELISA法を用いて検討したところ,ほとんどの菌株で交差反応がみられ,この赤血球凝集素が多くのF.nncleatumの細胞壁中に存在していることが示唆された。 2.F.nucleatum 19菌株を用いて,Streptococcusとの共凝集についての検討を行ったところ,その凝集阻害活性によりF.nucleatumが8グループに分けられた。その中には,アルギニン感受性の付着因子を有すると考えられるものも多くみられ,いくつかの菌株では,付着に2つ以上の因子が競合しながら関与していた。また,共凝集の中には,熱あるいはプロテアーゼ処理によりその付着特性が変化したものがあった。 以上の結果より,F.nucleatumのヒト細胞への付着にも,複数の付着因子が関与しており,その相手の細胞により関与する付着因子が変化していることが示唆された。ヒト歯肉溝の中には,プロテアーゼを含め,様々な付着因子を阻害・修飾する物質が存在するため,複数の付着因子を有することは,F.nucleatumが歯肉溝内に付着・定着し,歯肉溝白血球と接して歯周病原性を発揮する上で,大きな促進する因子となっていることが示唆された。
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