歯科用金属材料に由来するアレルギー反応のメカニズムを解明するためには、生体内に取込まれた合金成分の免疫学的反応機構を解析する生体側での研究と合金成分が生体内におかれた歯科修復物表面から溶出する機構、すなわち生体組織と修復物が直接、接している界面における電気化学的反応の研究が必要である。本研究は後者について検討することを目的としている。 具体的な研究計画は長崎大学歯学部歯科理工学教室の研究グループが実施している歯科用金合金の基本合金系Au-Cu-Ag3元系コヒーレント状態図作成に関する研究のうち、(1)AuCu-Ag擬2元系コヒーレント状態図に対応する腐食反応状態図を作成すること、(2)腐食反応生成物のESCAによる同定と化学シストの測定、(3)腐食反応の律速因子を求めることである。 本年度は研究計画(1)を実施した。AuCu-Ag擬2元系に基本となる組成、すなわち、状態図の縦軸になるAu-50at.%Cu2元合金を真空融製し、試料合金を作成した。試料合金の組成を確認するために、粉末を作成し973K、3.6ksの熱処理を施して不規則固溶体としX線回折を行った。試料合金鋳塊は1.5mm厚まで圧延して板状試験片を作成し、973Kにおいて3.6ks溶体化処理した不規則固溶体、それを673Kにおいて100ks焼戻時効してAuCuII規則格子相、573Kにおいて100ks焼戻時効してAuCuI規則格子相を生成した。これらの試験片についてポテンショダイナミック法を用いて1%NaCl溶液、温度310Kにおいて陽極的分極特性を求めた。分極曲線上で同一電位における電流密度を比較すると、AuCuI<AuCuII<不規則固溶体<加工状態の順番で高くなり、規則格子の生成が耐食性向上に寄与していることが判った。現在、1.5、3.0原子百分比のAgを含有する合金について実験を進めているいるところである。
|