本研究においては、骨結合インプラント症例についての人工歯根の圧感覚特性を把握するために、懸垂荷重による被圧量差の識別能力を調査した。 下顎前歯部にインプラントが装着されている10症例と、天然歯列被験例5症例とを被験対象とした。 荷重点には、インプラント症例においては切歯近心接触点部を、天然歯列被験例においては前歯・小臼歯を被覆するスプリントの中央部を選定した。荷重量差の識別テストにあたっては、まず、160gの懸垂荷重を荷重点に置き、その被圧量を記憶させ、ついで、100gより200gに至る20g間隔の6種類の中の任意量を荷重点に置き、1回目に比較して2回目が「重い」、「同じ」、「軽い」のいずれに感じたかを回答させた。さらに、識別能力の比較のために、天然歯の歯周囲組織へ麻酔を施した状態でのテストについても実施した。 インプラント症例の、160gの懸を対照とした、100g、120g、140g、160g、180gおよび200gの荷重量差の識別テストの平均正回答頻度は、それぞれ94%、62%、25%、65%および88%を示した。一方天然歯列者のそれは、100%、52%、36%、30%、74%および88%を示し、天然歯の歯周囲組織に対して麻酔を施した場合のそれは、100%、64%、36%、22%、78%および90%を示し、条件間にはほとんど差異が認められなかった。 以上の結果から、100gより200g懸垂荷重においては、筋および顎関節からの受圧情報のみによっても、下顎の被量の識別が可能であることが判明した。
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