口腔粘膜疾患は、水疱、びらん、潰瘍、白斑のさまざまな病態を示し、その病因も多岐にわたっているが、その臨床病態を直接反映する口腔粘膜表面の変化は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察されているのみである。しかし通常のSEMでは試科への複雑な操作が必要であるため、試料の変化が問題である。本研究では口腔粘膜疾患の立体的組織変化を観察するために試料への諸操作を施さずnative stateで観察できるWet-SEMを用いて、口腔粘膜疾患の表面組織変化を立体的に観察し、角化異常による角化細胞の形態変化と剥離状態を観察した。更に組織化学的に、角化により細胞蛋白質のSH基がSS結合へと変換することに着目して、角化異常によるSH基とSS結合の挙動分布の変化を観察した。結果は、表面組織変化は口腔扁平苔癬では、表面細胞の不規則な剥離・配列・形態および核の隆起などが観察された。白板症では扁平苔癬よりは規則的な表面細胞の配列・剥離・形態が観察され、核は認められなかった。 SH基の分布は口腔扁平苔癬では、基底細胞層にはあまり認められず有棘層ではその分布は不均一であり、その挙動は角化異常の程度と相関性があった。白板症では、SH基の分布は基底細胞層から有棘層へと徐々に増加し、角質層直下で最大となり、正常皮膚の分布に類似して規則的であったが分布量は少なかった。 SS結合の分布は、口腔扁平苔癬では最表層に多く不均一に分布した。白板症では、最表層にやや多く均一に分布した。以上より、口腔扁平苔癬の角化細胞は、その角化過程においてそれぞれ成熟度が異なり、最表層では過角化した細胞や未角化な細胞が混在し、様々な臨床病態を示すものと思われた。
|