研究概要 |
筆者は,下歯槽神経の侵害刺激が三叉神経脊髄路核から延髄腹外側部へ伝達され,ここを経由した後に交感神経を興奮させて昇圧反応を惹き起こすこと,ならびに視床内側核群の神経細胞活動が変化することを既に証明している。一方、三叉神経刺激は迷走神経を興奮させることが報告されている。そこで本研究では,延髄腹外側部と迷走神経核との相互作用に着目し,迷走神経核がどのように延髄腹外側部の神経細胞活動を修複するのかを解析して三叉自律神経反射の成立機構を明らかにすることを目的とした。 成熟ネコを抱水クロラールによって全身麻酔を施したのち,呼吸の影響を回避するために臭化パンクロニウムで不動化して,人工呼吸下にて実験を行った。実験中は常に大腿動脈から挿入したカテーテルによって動脈血圧を測定するととみに,心電計から心拍数も連続的に記録した。ネコを脳定位固定装置に固定して開頭したのち,小脳を除去して延髄を露出させ,延髄腹外側部ならびに迷走神経出力核にタングステン線微小電極を刺入し,両部位を電気生理学的に同定するとともに,同部位の電気刺激ならびに神経細胞活動の記録を準備した。 下歯槽神経を侵害刺激した際には延髄腹外側部の神経細胞が興奮して血圧が上昇するとともに心拍数が増加した。加えて迷走神経核神経細胞の活動も観察された。一方,下歯槽神経の侵害刺激と同時に迷走神経核の電気刺激すると,延髄腹外側部の神経細胞活動は迷走神経核を同時刺激しない場合よりも抑制された。また迷走神経核を破壊してから下歯槽神経へ侵害刺激を加えた場合と迷走神経核を破壊しない場合とを比較すると,延髄腹外側部の神経細胞活動性には顕著な差はなかった。従って迷走神経核は延髄腹外側部の神経細胞活動を修飾することが示唆された。しかし詳細な制御機構については今後の課題である。
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