顎関節関節円板および滑膜の創傷修復能力について、ウサギ顎関節を用いて研究した。ウサギ顎関節より関節円板を摘出し、右側の関節円板は円板周囲の滑膜を付着させた状態で、左側は滑膜を完全に除去した状態にして、両方の円板部に直径2mmの穿孔を形成した。それぞれを、diffusion chamberに入れて、同一ウサギの腹腔内に埋入。関節円板の生体内組織培養を行った。1、2週間後にdiffusion chamberを取り出し、肉眼および光顕にて観察した。 その結果、滑膜除去群においては、関節円板の穿孔は、1、2週ともにほとんど組織による修復はみられなかった。一方滑膜付着群においては、肉眼的に円板穿孔部は組織による補填がみられた。光顕的観察では、穿孔部を補填している組織は、円板周囲の滑膜組織から連続し、円板の上面および下面を被覆して入り込んでおり、線維芽細胞に富んだ粗な線維性結合織で、滑膜下組織と同様の組織像であった。一部には血管壁を含んでいた。また円板部では、組織の増殖は全くみられず、逆に穿孔断端部で線維芽細胞の核は変性し、周囲の線維束はバラけている。2週時においては、滑膜に連続し穿孔部を補填している組織と、円板の穿孔断端部の組織とは密に接しているが、はっきりとした円板線維に連続した線維束はみられなかった。 以上から、関節円板内の線維芽細胞と滑膜組織内の線維芽細胞とは、同じ線維芽細胞でも性格が異なり、また関節円板の組織修復に関しては、関節円板組織内の線維芽細胞ではなく、関節円板周囲の滑膜組織内の細胞にその能力があることが示唆された。今後、これらの細胞の線維産生能等の違いについて、詳細に研究する所存である。
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