臨床的に顎関節内障、特に復位を伴わない円板の前方転位例においては、開口障害を主症状とすることが多い。このような症例では、関節腔における線維性癒着、滑膜の発赤、うっ血、血管怒張等の炎症所見、線維軟膏のフィブリレーション、円板もしくは円板付着結合織部の穿孔などが認められる。これらの病態を解明し、顎関節構成組織の器質的変化を把握すべく、動物、さらには屍体において、発症機序を追求し、各病態に適する鏡視下手術法の確立と臨床応用をめざし研究を行っている。 本年度においては、固定前の屍体顎関節における上下関節腔内所見を把握することを目的とした。用いた関節鏡はストライカ-社製・TMJミニスコープシステムである。鏡視に際しては、関節鏡にビデオカメラを接続し、テレビモニターを介して所見の検討を行いながら、ビデオデッキによりビデオテープに記録を行った。線維性癒着に対して盲目的剥離授動術および、鏡視下剥離授動術を行った。現在までの研究において、鏡視下における所見としては、提供屍体が高齢者ということもあり、主に、関節腔の狭小化、下顎頭、関節窩の表面の粗造化および、線維性癒着をほぼ全例に認めた。これは、変形性関節症に多く認められる所見である。特に、線維性癒着では、前方滑膜間腔に多く認め、その種類としては、膜性癒着を呈していた。しかし、今年度は、新鮮屍体供給数が少なく、新たな知見は得られなかった。 関節円板の前方転位の原因として、外側翼突筋の異常拘縮および、外力によって引き起こされると考えられるが、これらと咬合、ストレスとの関連、さらには下顎頭、関節結節の形態との関連性等、その基本構造を中心に研究を進めている。現有設備では関節鏡による関節腔内の観察にとどまり、今後設備をそろえ、研究を進めていく方針である。
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