研究概要 |
本研究にあたり、正常唾液腺組織は顎下腺体内唾石症の患者に対する唾液腺摘出術時に得られた顎下腺を用いた。なお、この唾液腺組織は病理学的検索より正常組織であることが明らかにされた。手術時に得られた顎下腺組織を無菌的に採取し、あらかじめI型コラーゲンにてコートされた培養皿上に静置させ、無血清培地にて培養した。上記の条件下で培養した場合、上皮細胞のみの良好な増殖が得られたので、これらの細胞にSV40 ori-mutant DNAをリポフェクチン法を用いて、トランスフェクション行った。2,3週後、旺盛な細胞増殖を示すコロニーが出現したため、1つのコロニーをクローニングした。クローニングされた細胞をプラスチック皿上で培養した際、形態学的相違を示す4種類の細胞が認められたため、更にクローニングを行った。すなわち、多角形、紡錘形及び扁平な形態を示す細胞はそれぞれ導管上皮、筋上皮及び扁平上皮細胞に似ていた。また、多数の分泌顆粒を有する多角細胞は腺房細胞に類似していた。超微構造学的並びに特異的細胞マーカーの検索より、それぞれの細胞クローンは導管上皮、筋上皮および腺房細胞に極めて近似した細胞クローンであることが明らかとなった。なお、これらの細胞クローンにおけるSV40 DNAの組み込みと発現に関してSouthern blot及び間接蛍光抗体法により検索したところ、組み込み、発現ともに確認された。軟寒天中でのコロニー形成能及びヌードマウス背部皮下での腫瘍原性はともに認められなかった。以上の研究結果より、ヒト唾液腺組織を構成する4種類の細胞クローンがin vitroにおいて樹立され、これらの細胞クローンは非腫瘍原性であることが明らかとなった。すなわち、本研究の目的である正常ヒト唾液腺細胞の不死化は達成されたものと考える。
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