顎下腺中に多数含まれている生理活性物質の1つであるEGF(上皮成長因子)は、外胚葉および中胚葉由来の広範な細胞増殖を促進することが知られている。また、この顎下腺EGFには胃粘膜保護作用があり、実験的胃潰瘍の治癒促進に大きな影響を持つことが知られている。顎下腺EGFは唾液中にも分泌されており、これにさらされている口腔粘膜においも多大な影響を及ぼしていると思われるものである。今回の実験ではラットを、顎下腺除去群、非除去群、除去群+EGF投与群に分け、舌背部に実験的潰瘍を形成し、その創傷治癒について観察した。まず、創収縮の定量的観察では、肉眼的にも、また創の面積の大きさの変化においても、除去群の創治癒が最もおそく、除去群+EGF投与群は、非除去群とほぼ同じ程度および速さの創の治癒が観察された。血漿中のEGF量についても、除去群はほとんど認められなかったが、EGF投与群では非除去群とほぼ同程度のEGF量が観察され、口腔粘膜の創傷治癒にもこの顎下腺EGFが関与しているものと思われる。舌創部の組織学的変化についても除去群では炎症細胞浸潤の程度が強く現れ、術後2週間でも同程度であり、創表面の肉芽形成も不良であった。EGF投与群は、2週間後にはほぼ炎症症状も消失し、徐々に肉芽形成もみられ、非除去群とほぼ同程度の組織学的所見を示し、創の治癒が順調に進んでいることが確認された。EGFの投与量は1日10mug/kgの連日皮下投与で行ったが、この量および投与法、投与日数などは今後検討する余地がある。また、舌創部におけるEGF量やDNA合成量などの客観的指標についても今後明らかにする必要があると思われる。
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