歯牙移植の適応を考えると、第一に移植歯の歯根膜、移植床の歯根膜の残存量があげられる。この様に歯根膜の重要性は臨床を行うものにとって、無意識のうちに考慮されるものである。一般に組織は摘出などにより血流がとだえると壊死に陥る。実質臓器では30分から1時間で不可逆的な変化を起こすといわれている。特に凍結保存がなぜ有効であるかというと、組織を冷却することにより細胞の酸素消費量を抑制することが可能となるからである。しかし、この際に細胞膜のNa-Kポンプが壊れる危険性があるので、細胞膜の安定や細胞障害、膨化を避けるための細胞内組成に類似した保存液が使用される。歯牙の保存でも同様のことが考えられるが、牛乳や、生理食塩水中にいれて乾燥を避ける程度でも、かなり歯根膜の保存に役立つという報告もある。いずれにせよ歯牙の移植の場合では、実質臓器と比較して、保存もそれほど厳密でなくても高い成功率が得られると考えられた。 実験では、付着している血液をよく洗浄し、抗生物質を含む培養液にて約10分間保存前処理を施行した。抗生物質にはペニシリン・ストレプトマイシンの両剤を混ぜて使用した。処理した歯牙を、凍結保存専用容器(BICELL^R)に入れ、-80℃にて保存した。その後歯根膜の状態を観察したところ、残存歯根膜の状態は比較的良好であり、同歯牙を実験的に再植したところ(イヌ実験)、仔植後約2か月後の組織像で、上皮の過形成などがあり不完全ではあるが再生が確認された。これにより歯牙の凍結保存法は歯牙の一時的な保存法として十分な可能性が期待された。
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