歯根膜は歯の支持固定装置として機能するのみならず、咀嚼の神経性調節に重要な役割を演じている。本研究では、哺乳動物が生後、吸啜から咀嚼へと機能変換を遂げる過程における、歯根膜神経支配の発育変化を明らかにする目的で、ラット切歯歯根膜に多数存在するルフィニ神経終末の生後発育について、PGP9.5(protein gene product 9.5)抗血清を用いた免疫組織化学にて検索した。動物は、生後1、4、および切歯萌出期(9日前後)、切歯咬合開始期(15日)、第一臼歯咬合期(25日)、機能咬合期(60日)のWistar系ラット上顎切歯部を用い、4%パラホルムアルデヒドにて灌流固定後、EDTAにて脱灰、厚さ20mumの矢状断凍結切片を作成した。免疫染色は抗ヒトPGP9.5抗体を用いてABC法にて行い、光学顕微鏡にて舌側歯根膜の観察を行った。 PGPの免疫染色により、神経分布および神経終末の形態変化を詳細に観察することができた。PGP陽性神経は、生後1日ですでに舌側歯根膜相当部に観察されたが、その分布密度は低く、散在性で、明瞭な終末形成は認められなかった。生後4日になると舌側歯根膜にはalveolus-related part(AR)とtooth-related part(TR)の2層が明確に区別されるようになり、PGP陽性神経は成熟ラット同様、ARの領域に限局して認められた。また、その分布密度は増加し、一部で樹枝状の分枝が開始されており、中には末端が球状に膨隆した部分も観察された。さらに、樹枝状分枝の末端が棍棒状あるいは釣鐘状に膨隆した、ルフィニ神経終末様の形態は切歯萌出期になって始めて観察された。切歯咬合開始期では、典型的なルフィニ神経終末が急激に増加しつつあり、上下の第一臼歯が咬合を開始すると成熟ラット歯根膜と同様の分布密度、形態を呈するようになっていた。以上より、ルフィニ神経終末の最終分化には、歯の萌出・咬合による機能刺激が密接に関わっている可能性が示唆された。
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