この研究の目的は外科的矯正治療患者の術前後の舌骨の位置変化を調べ、舌の機能の順応性を把握し、術後の長期観察例の頭部X線規格写真を用い下顎骨と舌骨の位置変化との関連性を明らかにしようとするものである。 まず、頭位の変化による舌骨の位置変化について検討した。研究対象として成人の正常咬合者3名を用いた。研究資料は、咬頭嵌合位で撮影された側面セファログラムである。撮影時の頭位の設定はセファロスタットに設置された分度器を用いて行い、フランクフルト平面が水平の時の頭位を0度とし、+10、+5、0、-5、-10度に頭位を変化させた。計測の結果、セラ(S)と舌骨体部の最下点(H)の距離SHおよび第三頚稚の最下前縁点(C3)とHの距離C3Hが頭位の変化を影響を最も受けにくかった。そこで頭位の変化による舌骨の位置を補正するためにSHとC3Hを計測して用いることにした。 次にこの補正法を用いて骨格性開咬患者の外科的治療前後の舌骨の位置変化について検討した。研究対象は、当科にて外科的矯正治療を行った骨格性開咬患者のうち、特に手術後に舌機能によって後戻りを生じたと考えられる2名を用いた。研究資料は、外科手術前、術直後および6か月後に撮影された側面セファログラムのトレースの重ね合わせである。術前のX線写真で計測されたSHとC3Hを使用し、術直後および6か月後のX線写真の舌骨の位置を補正し、そこからの変化を治療による舌骨の位置変化とした。その結果、外科手術による下顎の時計回りの回転とともに上方に移動した舌骨は、下顎骨の後戻りに伴い前下方へ移動していることが明らかになった。
|