本研究の目的は、実験的に左右臼歯の咬合平面の高さの不均衡に起因する下顎の側方偏位の状態を引き起こし、その際に下顎骨に生じる変化について検討することである。本実験において、片側性咬合挙上のために4週齢ラット上顎右側臼歯部に矯正用ワイヤーとメッシュ板により作成した高さ1.2mmの咬合挙上板を接着した。実験開始3週後の動物の口腔内において正中線の偏位はみられなかった。左右下顎骨の肉眼的観察では左右下顎骨および対照群との間に大きな差は認められなかった。そこでそれぞれの下顎骨の軟エックス線写真を撮影しそれをさらに16倍に拡大・トレースを行い、デジタイザーにより座標値をパーソナルコンピュータに取込み、平均座標値を作製し比較を行った。下顎骨内で下顎孔-オトガイ孔を結んだ線分を基準線とし、これにより各下顎骨の重ね合せ図を作成した。その結果、対照群と実験群非咬合挙上側の外形の比較において大きな差異は認められなかった。対照群と実験群咬合挙上側の比較では実験群の下顎頭部と下顎角部が上方に偏位していた。また、咬合挙上側の臼歯の高さは対照群、非挙上側と比較し低く、臼歯の圧下が推測された。角度・距離計測では下顎角、下顎骨体長、下顎枝高、下顎長間では差異は認められなかった。生体染色の結果は、咬合挙上側の下顎下縁部で骨添加量の減少がみられた。装置除去後の変化は3週目までに装置の脱落を生じた動物実験が多かったため十分な結果は得られなかったが、一部の動物からの結果では咬合挙上側下顎骨の形態は、経時的に回復していくものと推察された。今回のラットによる実験において、片側性の咬合挙上により特に咬筋付着部と臼歯部での形態的変化が著しいことが認められた。また、下顎枝高に差がなかったことから成長量には変移が少ないことが考えられた。今後は装置除去後の変化と、咬合平面と下顎の側方偏位の関連についてさらに検討を進める予定である。
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